ぼくはあのママとのスパーリングから、わりと呆けた学校生活を送っていた。
夜のオナニーは大抵、女子ボクシングのDVDだったが、あの体験を思い出しては妄想で
オナニーをする事が多くなった。板前さんの握った寿司を食べた後で回転寿司に行って満足するはずがない。
それほど強烈だった。
宴の終わったような虚しさにかられ、インターネットを巡回する。キーワードは「女子ボクシング」
なかなか面白い画像が無い。もっとアンダーグランド臭のぷんぷんする画像や映像を見たい。
そういえば地下ボクシングなるものがこの東京にあるのは知っているが、どうやって行くのか知らない。
一晩でかなりのお金が動くらしい。ぼくなんかじゃ到底観戦出来ないだろう。年齢と、資金の面で。
ガチャリと音がして、ぼくの部屋のドアが開く。勿論家にはママ一人。いつでも勝手に入ってくる。
「よっ、建都」ママは右手を挙げてフレンドリーに挨拶をして来る。ぼくとのスパーリングから、より
フレンドリーな関係になってしまった。ママはぼくを友達のように扱ってくる。
「わが息子はインターネットでズリネタ探しですか〜」嫌な笑顔でぼくのパソコンを覗いて来る。
「そ、ズリネタ。悪い?」はっきりとぼくが言うと、ママは驚いた顔をした。
「はっきり言うね〜」
「そりゃあね、こういう環境で育ってるからこうもなるよ」ぼくは適当に頭に浮かんだ事を言って、再度
パソコンの画面を見ながら検索をかける。
「地下ボクシング」とパソコンで検索して、候補を隅々まで見る。あった。
「男女ペアでご招待!地下女子ボクシング!」
ページの下の方にはプリントアウトして切り取るタイプのチケットが付いている。
チケットをよく見ると、男女で行くと入れるらしい。よくもまあ堂々とWEBサイトを構えているものだと
ぼくは感心した。後日分かった事だが、「女子地下ボクシングフェチ」を対象にハッキングをしてウイルスを入れ、
「地下ボクシング」と検索をかけるとこのページが表示されるというウイルスの働きだった。
当然、このウイルスに感染していないと、地下女子ボクシングのサイトへは行けない。
「ほら、これ。行きたいな」ぼくはストレートにママに聞いてみた。
「ふーん、男女で行けるんだ、建都、行きたいの?」
「行きたいよ、生でスゴイ試合が見れるかもしれない」
「18禁じゃないの?おこちゃまはダメでしょ」
「いやいや、地下でイリーガルな活動してる時点でアウトだから、大丈夫でしょう」
「ふーん、いくら?」
「それが、どうも男女ペアで行けばタダみたいなんだよね」
「何それ?怪しっ!」ママは不振そうな顔をしてディスプレイを覗き込んでいる。
ぼくはどうにか頼み込んで、いっしょに行って貰う事にした。
当日、深夜にある潰れたライブハウスに僕とママは向かった。
「へー、この奥にリングがあるんだ」ママはドアに手を掛ける。するとその手を黒い手袋が掴んだ。
「何か?」黒い手袋をした、ガタイの良いサングラスを掛けた男性が聞いてきた。
「あ」ぼくはチケットを渡す。サングラスの男性は、こちらから見えないが、ぼくやママやチケットに
視線をぐるぐる移動しているようだった。正直ドキドキする。
「いいですね、お通り下さい」サングラスの男性の口元が緩んだ。目は笑っていないんだろうなきっと。
でも、この男性の言った「いいですね」の意味は後で重要なキーになった。
ライブハウスのドアが開いてすぐに締まる。その奥にすぐドアがあり、これが試合会場に繋がっているらしい。
「えーと」サングラスの男性(以後サングラス)はそう言いながら中まで付いてきた。
「ボクとお姉さんでいいのかな?」サングラスがそう言うと
「一応母親です〜」とママは若く見られたのが嬉しいのか、浮かれた声で言う。
「ほう、それにしてもいいですね」
「何がですか?」サングラスの先ほどから言う「いいですね」が、ママは気になってきたらしい。
「これ、男女同伴で、女性はトップレスで試合をやる事になってますんで。男性はセコンドです」
「はぁ?」ママとボクの声がユニゾンした。
「今日はこれで最後なので私がバンテージを巻きますよ」サングラスはそう言ってママに近寄る。
「ちょ、ちょ」ママは急な展開にアタフタしながらも、無抵抗にバンテージを巻かれている。
「じゃあ、ボクはマウスピースをそこのお湯に付けてから、キミのママの口に入れてフィットさせてくれるかな?」
「はい」
こういう事って有るんだなぁとぼくは他人事のように思いながら、マウスピースをお湯に入れた。