《俺の妹ボッコボコ》
いやー、兄は久しぶりに我が妹、明日菜(あすな)の試合を見に来たぞ、相変わらずここで出る弁当は美味い。今日こそは勝つだろう。期待してるぞ。
パンフレットで対戦相手でもチェックするか。なになに?チャンピオン?パンチの凄い破壊力?
なーに、兄は気にしない。負けてもいいさ。うん。チャンピオンだからね。
*
試合開始からチャンピオンは突っ込んできた。明日菜はどう対処して良いのか分からなかった。相手の勢いをそのままカウンターで返したいが、
凄い筋肉でガードもビッシリ固めている。
迷っていると、ジャブで様子も見ずにチャンピオンは右フックを放ってきた。
メリッと明日菜の脳に音が響いた。ダメージが明日菜のマウスピースを超える程の勢いで、歯茎のあたりまで衝撃が走り、明日菜は一発でフラフラになる。
チャンピオンはすぐに左のフックを放つ。これも明日菜の頬にクリーンヒット。メシッと明日菜のアゴの骨が音をたてた。
その、たった二発で明日菜はドン!と膝をついた。
「減点上等!」そう言いながら、膝をついてダウン扱いの明日菜の顔面に、チャンピオンのストレートがめり込む。
グチャッと何かが潰れる音がした。やわらかい明日菜の顔面を破壊するかの如く、ストレートは見事に決まっていた。
「ぶはっ!」明日菜が鼻血と、口の中を切ったのか口から血を吐き出した。それによって明日菜の口からはみ出ている巨大なマウスピースが一部赤色に
染まる。そのまま明日菜は顔面からグチャリと前に倒れた。
レフリーのカウント8で明日菜はやっと立ち上がるが、目の焦点が合っていない。試合再開で明日菜はパンチを打つが、全く見当違いな所へ打っている。
チャンピオンはそのスキに、右左右と、強烈なフックを明日菜に連続して打ち込んだ。そして最後に全く無防備な明日菜に渾身の右フック!
ぐしゃぁぁぁっ!
あの巨大で口からは絶対に出る事の無いマウスピースが遂に明日菜の口から飛び出した。
唾液と血で覆われたマウスピースは、その大きさ分だけ、大きなビタン!ビタンと跳ねる音が大きく響いた。
試合レフリーの女性が、試合の妨げにならないようにマウスピースを拾う。そして両手いっぱいの大きさのマウスピースに驚愕しているようだ。
明日菜はというと、倒れずに鼻血と、口から唾液と血を垂らしながらファイティングポーズをとっている。
ぐじゅ・・・
再度、チャンピオンのストレートが明日菜の顔面にヒットした。チャンピオンがグローブを引くと、明日菜が鼻血をボトボトと落とした。
明日菜の両頬は晴れ上がって、下から目を圧迫している。そんな状態になっても明日菜は倒れない。
レフリーがスキを見て明日菜にマウスピースを咥えさせようとする。巨大なマウスピースはなかなか明日菜の口に入らず、レフリーはやけになって無理やり押し込んだ。
そして試合再開の合図。チャンピオンは手を抜く事は無く、得意の右フックを力いっぱい打ってきた。
たった、たった今苦労して咥えたマウスピースがグジュッグチョッと汁気の多い音を出して明日菜の口から吐き出される。
びちゃっ!とマウスピースが唾液と血を散らして、リングに張り付いた。そして明日菜はあおむけにダウンした。
勝ち目は無い。しかし明日菜はカウント9で何とか立つ。余裕は無いはずなのに明日菜は笑っている。腫れの増してきた顔で、(まだまだ)とチャンピオンを挑発
しているようだ。
明日菜の左目は頬の腫れと、目の上の腫れで圧迫されて潰れている。逆の目も時間の問題だ。喧嘩でもこうはならない、悲惨な顔。チャンピオンのパンチの威力。
それでもチャンピオンは手抜きをしない。右フック、左フックを多様して明日菜をリングの上に沈めようとフルパワーで動いている。
フックの度に、リングの外まで明日菜の血と唾液が飛び散る。太ももを伝って足首に、そして足元に尿の水溜りを作っている明日菜。もう失禁しているとは
自分で気がついていないらしい。
ふっ、と明日菜の体の力が抜け、尿の水溜りにベシャッと体を叩きつけてダウンした。
もう明日菜の目はイッている。ダウンしている状態で、再度失禁を始める。出し切るまで尿を排泄した。
カウントが始まり、立ち上がろうとする明日菜。震える両手で体を支えて、立てるかと思った瞬間
ゲボォォォッ!
明日菜が胃液をぶちまけた。そして再度、尿の上にバシャッと倒れる。どうやら限界のようだ。ひどい顔の腫れ様だ。普通のボクシングではここまでならない。
「ぼろぞうきん」という言場がピッタリだ。
*
やっぱり今日も勝てなかったのか。いいよ、兄はいつまでも試合を見に来る!お前が勝つまでな!