部費の問題で、男子ボクシング部、女子ボクシング部が統一され、男女ボクシング部になった。

男子ボクシング部の部長「矢根 大輔」(やね だいすけ)と

女子ボクシング部の部長「谷口 康子」(たにぐち やすこ)は、どちらが部長に相応しいか

部活後、二人だけで試合形式のスパーリングをする事になった。

 

「いやぁ谷口、お前と一回試合がしたかったんだ」矢根はふてぶてしく言った。

「ゴタクはいいからさっさとやらない?」谷口は、そのふてぶてしさから、(俺は余裕で勝つ)

と読みとって、不愉快になっている。

「ちゃんとお互いにトランクス。お互いに赤のグローブ。同じく赤いボクシングシューズ。ちゃんとした

試合形式だな」

「当たり前でしょ!ちゃんと部長を決める対決なんだし」谷口は噛み付くように言った。

「だが、ルールは、ラウンド無し。どちらかが負けを認めるまで。こればっかりはアウトローだな」

矢根が相変わらずのふてぶてしい態度で言う。

「しょうがないでしょ、こっそりやるんだから。顧問の先生には話し合いで決めろって言われてるし」

「だな。じゃあやりますか。あ、俺はお前と試合やりたいというより、お前をマットに叩きつけたかったんだ」

谷口はさらに不機嫌になる。

 

「じゃ、いくわよ!カーン!」谷口はゴングがわりに言った。

 

と同時に矢根が谷口の右に滑り込むように移動した。

そしてジャブが数発。谷口は突然の事にガードも出来ず、まともに食らう。

(距離とったほうが良さそうね)谷口はすぐに頭を切り替え、数歩後ろに下がった。

「殴ったら、女って柔らかいなぁ、それに、良い香りがする。たとえそれが汗の匂いだとしてもな」

「嗅ぐなっ!」谷口の頬がうっすら紅くなる。

「いや、結局、男と女のペアが部屋にいると、そういう空気になっちまうんだよ」矢根は笑う。

「お前、何で彼氏とかいないんだ?そんなに可愛いのに」続いて矢根が言う。

「うるさいっ!関係無いでしょう!?こっちからも行くわよ!」

谷口は自慢のフットワークでリングの上を舞うように動き出した。矢根がパンチを打ってもなかなか当たらない。

パンチが届いたとしても、上半身だけ動かして、かわしてしまう。

「チッ!当たらねえ!」

矢根が怯んだ瞬間、谷口はサイドからストレートを打った。

ぐしゃっという音がして、矢根が腰からストーンとリングの上に落ちた。

「っっつーーっ!痛えな」

「どう?これでも私をマットに叩きつける気?無理じゃない?」谷口は皮肉を言って笑って見せた。

「痛えけど、まあ大した威力じゃないな」矢根はパンチの当たった左頬をさすりながら起き上がる。

「谷口、しゃがんでたら、トランクスの間からアレがしっかり見えたぞ、お前、毛が濃いんだな」

「なっ!」今度は谷口が怯んだ。

「俺はこのパンチで今までの試合勝ってきたんだ」矢根は超近距離から、腰をひねる力で谷口のわき腹にパンチを

めり込ませた。

「うがっ!」悶絶するほどの苦しさが谷口を襲う。内臓を吐き出したら楽になるかもしれないと思った。

(こんなに早く、そしてたった二発でリングに沈んだら自分が情けない!)

谷口は恥を捨てて矢根にクリンチをした。

「抱きついてくれんのか?そんなことされたら立っちまうだろ?俺のナニが」

そう言うと矢根は両手で谷口をドンと押し、クリンチを剥がした。

「やっぱ部長は俺だな」

パシュッ!

擦るような形で矢根のパンチが谷口の頬に当たり、頭をグラつかせる。

「これでフィニッシュブローを叩き込んだら俺の勝ち。だが今はやらない」

(どういう事?)谷口は軽い脳震盪状態で、言場には出せなかった。

「楽しんでんだ。女臭く汗臭いお前をな。部活が終わった後だから汗で肌がしっとりして、たまらんよ俺は」

(絶対に余裕で試合をしていた事を後悔させてやる!)谷口は少しフラフラするが、自分の高いプライドが

体を支えている。

「へっ」谷口が鼻で笑い、こう続けた。

「あんただって十分臭い。軽いワキガ?本当に無神経な男の匂いがするわね」

「ああ、軽いワキガだな。部活中にしょっちゅう言われる事だ」

矢根への挑発は失敗した。

「ま、楽しくやろうぜ。俺は性的興奮を味わってるんだ」矢根は両手を広げて笑顔を見せる。

こういった矢根のパフォーマンスのおかげで、谷口は少しずつダメージを回復して行く。

「マウスピースを吐かせるのもいいな、顔とボディどっちがいい?」

「私も宣言するね、こっちもマウスピースを吐かせてやる、顔とボディ、どっちがいい?」

谷口にそう言われて矢根は癪にさわったのか、いきなりストレートを打つ。

(こっちだって!)谷口もストレートを打った。

ぐしゅっ!

パンチはお互いの頬にめり込んでいた。相打ちだ。そして互いの口からマウスピースが吐き出された。

二人は数歩下がり距離をおいて中腰になる。

「マジかよ、クロスカウンターぎみに入ったぞ、頭がクラッとして倒れるかと思った」

「そのまま倒れなくて良かった、あなたの無様に吐き出したマウスピースを見せつけてやりたかったから」

「お前も吐いただろう、っていうかよく俺のとお前のを比べてみろよ」

「比べる?」

「何で男のマウスピースよりデカいんだ?しかも俺のより唾液がかなり飛び散ってるな」

そう言うと、矢根は谷口のマウスピースをグローブで掴んで本人の鼻に押し付けるようにした。

「臭いだろ、唾液を吐きすぎなんだよ、よく嗅いでみろよ」

「やめて!」

「何でだ?」

「ん・・・・・・臭い・・・から」

「だろう?こうやって距離を取っている俺にさえ唾液の刺激臭がする。傾けたら唾液が滴り落ちるぞ」

そう言って矢根がマウスピースを傾けると、谷口の唾液がローションのように粘って滴っている。

「でな、俺がしたいのはもう一つ」

「まだあんたの変態に付き合わなけりゃいけないわけ?」

「違う。お前とガチで殴り合いがしたい。いつも女子ボクシング部を見て思っていた」

「やっと普通の試合になるわけね」

「いいや、ボクシングだが、スポーツではなく暴力だな。お前も死ぬ気で打って来いよ?この衝動が

押さえられないんだ」