「おーい、麻子」

主将が私を呼んでいる。用件は・・・大体分かる。女子ボクシング部の入部希望者達の

試験のような形で、弱い私と戦わせてみる。そういう事。

「聞こえてる?麻子」

「あ、はっ、はい!」私が主将の元へ行くと、やはり思ったとおりだ。入部希望者が

数人いる。

「じゃ、麻子、いつも通りにこいつらとのスパーリングを頼む。」

主将に言われて、とりあえずバンテージを巻いて赤いグローブを着ける。

格好は体操服に紺色のブルマ。とりあえず簡単なお手軽試合。

そして重要なのが私のマウスピース。他人が見ればその大きさと肉厚さに驚くだろう。

口に入れるのも難儀で、口にねじ込んでその後形を口の中で調整して、最後に歯に収まる。

うすく黄色く変色をしているのは、洗わずにいるからだ。ばい菌の問題もちゃんと考えてある。

理科室の滅菌する機械を使ってばい菌を駆除している。

それが、私のマウスピース。私のこだわり。

 

スパーリングが始まった。今回の入部希望者は全員、ボクシングをかじったことがあるらしい。

主将に「手、抜かなくていいから」と教えられたのだろう。本気のパンチが次々に繰り出される。

私はガードが苦手なのでフックの応酬を受けた。クリーンヒットばかりで、パン!と大きな音が

パンチの度に部室に響き渡る。そして私は右や左のフックを食らうたびに、ただ唾液を撒き散らした。

両手をだらんとして殴られている私を見て、相手は手を止めた。このままだと危険だと判断したのだろうか?

そこへ主将が「フィニッシュブロー!」と叫ぶ。

そして飛んできたパンチは、強烈な右フック。私の顔が歪み、口からは唾液がオイルのような働きをして

マウスピースがニュルッと一気に飛び出た。

ぼどっ!ぼどっ!と重たい音がして私のマウスピースが跳ねる。そして私の体もマットの上に叩きつけられ

「マットに沈んだ」状態になる。顔面を打たれまくったのでパンチ酔いの状態に私はなっていた。

何ともふわふわした雰囲気に快楽さえ感じる。最近では、私の本能は殴られる事を望んで、殴られて

快楽を得、悦んでいると確信している。しかしそんな幸せな時間も束の間。二人目がリングに上がってきた。

私はマウスピースをグチャッと掴むと、口にねじ込んで立ち上がる。

案の定、私はガードが下手だし弱い。ひたすら顔面を滅多打ちにされる。

何だか顔が腫れてきたような気がする。

そしてマウスピースは片方が口からはみ出し、もう片方を必死にかみ続けて口から落ちるのを防いでいる。

それでも容赦無いパンチがひたすら私の顔面を殴打し続ける。私はマウスピースが口から落ちないように

ただひたすら噛む力に神経を注いだ。

 そして最後はアッパーを食らった。私はのけぞって天井へ向けて唾液を吐き散らした。

ダウンする寸前に口の力を失って、マウスピースを吐き出した。

 次で最後だ。頑張りたいが、顔面殴打の打たれすぎで片目が腫れてふさがってしまった。

「ちょっとシャレにならん位顔が腫れてるから、もうええよ」と主将が言った。

私はもっと殴られても平気だと思ったが、とりあえず主将に言われたので言う通りにした。

「お前もうちょっと強くなれよ」と主将。

「は・・・はい・・・」私は自信のない声で返事をする。

 

部活が終わってからトイレに行って鏡を見てみた。

すっかり腫れ上がった顔がそこには有った。見た目は痛々しいが、私がそこに快楽を感じていたというのは

確かな事実だった。そしてマウスピース。今日も大量に私の唾液を染みこませ、更に臭くなる事だろう。

今日はこのマウスピースを嗅ぎながら自慰行為をしよう。有意義な一日だった。