今日こそ兄は妹の勝ちを見届ける!何度言っただろうか。勝った試しがない。まあ試合を見せて頂こう。
今回の明日菜の相手はとても引き締まった体の選手だ。普通にやり手の選手に見える。
試合開始のゴングが鳴ると、一気に明日菜目がけて突っ込んで来る。
とりあえず明日菜はカウンターが苦手なので、ガードに専念した。
相手は一旦停止すると、低い位置からのアッパーを打った。
ガードしているグローブごと明日菜のアゴを跳ね上げる。明日菜は唾液を吐き散らしてよろめく。
唾液が天井のライトに当たってキラキラと光る。
その間に相手は既にストレートを打つ準備をしており、明日菜が顔を元の位置に戻すとグローブが目前に
迫っていた。
ばん!と音がして明日菜の顔の左側にパンチはヒットした。その威力に体がロープぎわまで吹き飛ばされる。
そして畳み掛けるように右、左とフックが襲い掛かり、明日菜は何度も唾液を吐いた。
口に含んだ水をバシャッと一気に吐き出すように、今回は散らずに固まりが宙を舞う。
そしてその粘性の強い唾液は明日菜の口からダラリと垂れたままになっている。
明日菜もやられてばかりではいない。色々な角度からパンチを打つ。が、相手はガードや体をひねって回避して
いっこうに当たらない。
その為にひるんだ明日菜にパンチが飛んできて、同じように顔の左側にヒットした。明日菜はダウンしないように
何とか体を後ろに持っていってロープにもたれかかり、その反動で体制を立て直した。
明日菜が再度ガードする。
相手は一旦一歩後退した。それを見た明日菜は責め時だと思い、ガードを解く。
だがそれが相手の狙いだったらしく、急に明日菜の目の前へ飛び込んでくると、右フックを打った。
グシャッと明日菜の顔が歪む。口にやっと収まるほどのマウスピースが半分飛び出し、唾液を滴らせる。
そこで1ラウンド終了のゴングが鳴った。
明日菜は必死だが、同時に打たれるのが快感なMなので、少し興奮したらしくグローブで股間をこねるように
弄っている。
そうやって興奮している間にインターバルが終わり、2Rへ突入した。
1Rに食らった顔左を狙った二発のストレートで、早くも明日菜の左目が腫れて潰れかけている。威力も
かなりあったようだ。明日菜はそれをフォローするように体の右側を前に出し、見える方の目で戦う格好になる。
相手からはそれが正面ではなく横向きになる為に、パンチを打つタイミングを計っている。適当に打ち込んでは
当たらないスタイルだ。
明日菜はそれを読み取ると、右のジャブを数発打つ。相手はそれをガードして後退した。
ジャブを打ち終わった瞬間の隙が致命的だった。パンチからガードや追加攻撃を加える能力がまだ明日菜には無い。
無防備な顔面にストレートが打ち込まれた。
明日菜の顔にクリティカルヒットして、明日菜が体をグラつかせる。
相手が追加攻撃をして来ようとしているのを見て、明日菜は再度、相手に対して横に構えた。
今度は相手が回りこみ、明日菜の体が正面に位置するような位置に立った。
そしてジャブを数発打つ。それを全部食らう明日菜。唾液と血が舞い散る。
ジャブでひるませてストレート。明日菜はお決まりのコンボはさすがに熟知している。体を斜めに倒してストレートを
かわした。そして明日菜からの反撃のフックが飛び出した。が、当たらない。相手も同じように体を傾けて
かわす。攻防戦ではあるが、明日菜のほうがパンチを一方的に食らっている。
それに、スタミナも明日菜の方が無いのは明白で、どんどん動きが悪くなっている。
だんだんと顔面にパンチを食らう頻度が多くなって来た。ただ明日菜は残った右目だけを庇うようにしていた。だが
相手の的確なパンチは顔の右半分もしっかりとパンチを当ててくる。
ぐしゃぁっ!
集中力の低下の為にくらってしまった右フック。明日菜の口からマウスピースが飛び出す寸前まではみ出た。
今度は逆の左フック!遂に明日菜は口からマウスピースを吐き出した。
マウスピースは唾液を含んだ音をビタンビタンとさせながらリングの上を跳ねた。
右目が完全に腫れで塞がってしまった。明日菜はもう右目に頼るしかない。せめて2ラウンドが終わるまで頑張って
体力回復に当てたい所だが、相手はもうフィニッシュの準備が出来ていた。
相手のアッパーが明日菜の顎を捉えた。口に溜まった唾液を吐き、体をのけぞらせて明日菜はロープまで弾き飛ばされて、
そのロープの反動で相手に向かって倒れこむ。そこへもう一発アッパーが待っていた。
誰が見てももう終わりだった。血を撒き散らして明日菜がダウンする。
倒れた明日菜の目には光が無かった。完全に意識が途切れ、時折ビクン!と体が跳ねる。
傍らに落ちているマウスピースが、ただただ虚しかった。