俺と直美の打ち合いが始まった。

格闘用の筋肉ではないと言えども、筋肉は筋肉。打ってくるパンチは鋭い。

避けていると、すぐにコーナーポストへ追い詰められた。

俺は心理戦に持ち込もうと考える。

「お前、自分の全裸を鏡に映してオナニーしてんだろ」

直美のパンチがふと止まる。チャンスだ!顔面狙って俺はパンチをぶち込んだ。

直美が後ろに倒れる、その軌跡に、弧を描くように唾液が糸を引く。

直美は腰からズドンと落ちた。

「言葉の不意打ちはひどいよ・・・」

「でも、やってるんだろ?」

「・・・やってる」

「どこに興奮するんだ?」

「腹筋が中心だよ・・・興奮するんだもん」

「アソコも写してオナニーとか」

「それはしない」

「しないのか・・・」

「うん、形が変でグロい・・・臭いし」

そう言いながら直美は立ち上がった。

 

「お前のその筋肉という要塞を俺のパンチで崩してみせる!」

俺は直美を指さして宣言した。

「それはちょっと・・・」直美がモジモジして何か言いたそうだ。

「ちょっと、何だ?」

「ちょっと、ダサい・・・」

俺はへこんだ。バブル崩壊前ならトレンドだったかもしれない。トレンド?

 

 試合再開。直美は相変わらず素早いパンチを繰り出してくる。

だが腰を使うパンチでは無く、手を振り回しているようで隙だらけ。

直美の大降りのフックを避けると、俺は真っ向からボディに打ち込む。

今度ははじかれる音ではなく、かといってめり込むわけでも無いが、手ごたえはあった。

直美が数歩とてとてっと下がって顔色が悪くなる。

「ちょ・・・っと・・・効いたかも」

そう言った直後に、ブリュッと音がして直美の口からマウスピースが吐き出された。

先程より唾液がマウスピースにしみこんでいるらしく、ビチャッと水気を含んだ音をたてて

跳ねまわる。

ここは追加攻撃だ。狙うは顔面!

直美の顔を左右のストレート、計四発を打ち込む。

「ブほっ!」と直美が口から血と唾液を吐き出して、ダウンかと思ったが踏みとどまる。

「いいパンチ・・・もらっちゃった」直美の鼻から鼻血がツーッと垂れてマットにポタポタ落ちた。

よろけながら直美は自分のマウスピースを拾った。

それを自分でじっと見つめていたが、口に咥える前にグローブからマウスピースを落とす。

「あっ!はぅっ!うっ!」直美の体がガクガクと揺れる。

「どうした?」俺が声をかけるが、直美はそのまま前のめりに倒れて土下座のような形になる。

そのまま少しビクッ!ビクッ!と跳ねるように腰が上がる。

 

 

「い、イっちゃったぁ」

ハァハァと吐息を吐きながら直美は言った。顔が少し紅い。

「凄いよ・・・凄い・・・」直美は一人で納得している。そしてマウスピースをさっと口に含み、

よろよろっと立ち上がった。

「まだまだ、試合はこれからだよね」

その事場に、俺は「ああ」と答えて少し笑った。

汗をかいて、直美の体から甘い女の子の匂いと、酸っぱい汗の匂いが漂う。