(女の筋肉美か。いいな、こういうのも)

俺は地下ボクシングを色々見てきたが、みちるって選手、筋肉で引き締まっている。

それでいて、筋肉だけは無く、官能的に似た女っぽさが有る。照明で少し熱いのか、

みちるはうっすら汗をかき、そのボディが光を艶かしく反射している。

顔は可愛い。垢抜けてない純粋そうな女の娘だ。顔と体のギャップ、そこに俺は興奮した。

相手選手はフツーだ。

 

色々考えていると、試合が始まった。

相手はテクニシャンらしく、みちるに何発もジャブを打ちつけている。

パンフレット見てみよう。えーと、あの選手は・・・ミヨって言うんだ。技巧派だな。

 

 

 

                          *

 

みちるは腹筋が鉄壁のガードになっているので、わりと顔辺りをガードしている。

ミヨはそのガードを崩そうと打つが、ガードは簡単に崩れない。

それに集中していると、今度はみちるが急にフックを打つ。

観客席から特に反応が無い。普通のボクシングのような展開は望んでいないらしい。

好きなボクサーが無様に負けるのが楽しみな客ばかりなので、少し不満の声が所々から

聞こえる。

 その退屈な試合展開から、いきなり激しい試合になって来た。

みちるのパンチが飛んでくる瞬間にミヨはギリギリでそれを返し、隙が出来た瞬間に

フックを思い切り打つ。それを何度か繰り返している。

みちるダウンするか?と思われたが、ゴングが鳴った。

「みちる、後半はかなり殴られたけどダメージはどう?」セコンドがみちるの肩を掴んで

話しかける。顔に強烈なフックを数発受けているので少しボーッとしている。

「とりあえず、これにマウスピース吐いて」セコンドがバケツを用意した。

グチョッとバケツの中にマウスピースが吐き出される。

セコンドはマウスピースを洗おうと手に取る。ゴム製のような弾力性があり、肉厚なマウスピースから

異常な量の唾液が滴り、唾液の匂いが手に持っただけで漂ってくる。ひどく臭い。

「あ・・・・・・臭かった?」みちるが心配して言うが、「大丈夫、慣れてるから」とセコンドは言った。

本音を言えば、昔から今まで、マウスピースが毎回臭い。特に今日はひさびさの試合のせいか、興奮

状態にあるので、唾液の量は多く、臭さがいつもの二倍は、匂いの漂う範囲が広い。

 

 2ラウンド開始のゴングが鳴る。結局、みちるのマウスピースの匂いは取れなかった。少し臭いまま、

みちるの口にマウスピースが入る。

ミヨが最初に飛び出した。みちるは、ガードをした状態で待っている。技巧派が苦手なようで、相手から

打って出るのを待つ。

ミヨはそのままの勢いでボディを狙っていた。みちるは、まず腹筋は打たれても大丈夫だろうと思って

いたが、違った。

 走る勢いにミヨの体重がかけられた形で、無防備なみちるのボディにグローブが突き刺さる。

「ウエッ!」とみちるが苦悶の声を出し、臭いマウスピースを吐いた。

ビチャン、ビチャン、ビチャン・・・ビチャンと、柔らかいその純白なマウスピースはしつこい程、唾液を

撒き散らしながらバウンドする。ミヨはその唾液の散る範囲から後退した。

みちるは自分の鉄壁ボディを信頼しきっていたので、精神的ダメージも多かった。

みちるは必死に倒れまいと踏ん張る。そして吐いたマウスピースを拾って口に入れた。

マウスピースは、拾われてもう無いので、異常に飛び散った唾液はツーンとした匂いをリング上に漂わせている。

完全にミヨが有利だ。みちるは滅多打ちされた。右フック、左フックで唾液を散らし、ボディを

殴られてマウスピースを吐きかけ、ダメージを蓄積して行く。

殴られ、殴られ、唾液を吐き、みちるはメッタ打ちだ。

フックで散っていく唾液に、血がまじって来た。

観客がミヨに、もっとやれ!もっとやれ!と言い出して来た。

皆考えている事は一緒だ。みちるのファンがミヨに打てと催促している。

堂々とした、引き締まった筋肉を持つみちるに、無様にリングに沈んで欲しいようだ。

一方的にパンチを打たれるみちるが、ダウンするか!?と皆が思っていた時、ゴングが鳴った。

みちるのセコンドは、リングに入り、ヨタヨタと歩くみちるを椅子に座らせた。

「はい、バケツ」セコンドに言われ、ビヂャッ!と血まみれのマウスピースがバケツに吐き出された。

みちるは執拗に打たれたフックのせいで、左目はふさがり、紫色のようなあざが出来ている。

右目も同様、かろうじて塞がってはいないが、アザが痛々しい。

肩で苦しそうに息をして、目が死んだ魚のよう。

鉄壁の筋肉は、見る影も無くボロボロだ。

 

そして試合再開。

もうみちるはボーッとしている。そこへ容赦無くパンチが飛んで来た。

顔面を打たれ、鼻血が出て、ぽたりぽたりと血がマットの上に落ちる。

それでも打つ!打つ!打つ!。

ゴングが鳴った。よたよたと、みちるは歩いて自分のコーナーへ行き、用意された椅子に座った。

そしてセコンドがバケツを渡す、やはり血まみれだ、いや、血みどろと猟奇的な表現が出来る位だ。

セコンドはその血まみれのマウスピースを洗おうとした時、「えっ!」と叫んだ。

「マウスピースが変形してる・・・」

しかしマウスピースは一つしかないので、変形したまま使ってもらうしか無い。

血まみれだが、血の匂いより唾液の匂いの方が強い。口の保護の役割を果たしているが、

パンチ一発ごとにマウスピーは唾液を染みこませていったようだ

そのせいでラウンドを重ねるごとにマウスピースはより強く匂いを発する。

 

ゴングが鳴る。変形したマウスピースを咥えて、みちるは立ち上がった。

 

もう限界だった。みちるは立った状態のまま、いきなり血塗れのマウスピースをブホッと吐き出した。

みちるがうつ伏せに倒れこんだ。ダメージの蓄積が許容範囲を超えてしまったようだ。

そしてダウンしたまま、細かく痙攣を始めた。そして尿を排泄する。

ミヨが立ったまま痙攣を続けるみちるを見下している。

みちるは気を失って行った。

                       END