負けた事の無い選手なんていないから。少なくとも、ぼくは思った。

ギャラリー側から罵声なのかただコーフンしているだけなのか、ノイズのように頭に響く。

 

 一ラウンド一分半。強烈な右フックと、見たこともない大振りのアッパー。

それでママはダウンしてしまった。こんなに強い対戦相手は見た事が無い。ぼくは

リングの下からその対戦相手を見上げた。

その人は腰まで伸びたブルーのサラサラした髪を風になびかせるようにして、ぼくに振り向いた。

その顔は軽く笑っていた。あまり好意的ではない目だ。そして多分、ぼくのママより若い。

「すべてが完璧」っていう言葉が当てはまるかな?難しくてよく分からないけど。

ママはあおむけにダウンしている。失神決着勝負なので、もうしばらくこのままだとママの負けだ。

 

 ママの体がのけぞった。立つのだろうか。

ママの口から「ゴボッ」という音(配水管からする音みたいな)がして、マウスピースをデロッと

吐き出した。ただマウスピースを吐き出す為だけに体がのけぞったんだ。

目は白目になってる。今日はもう無理かもしれない。そう思った。

相手の選手と比べると、バスタオルとぼろ雑巾だ。たった一発のフックで右頬を歪ませているママが

口を少し動かした。ゴロンと転がってうつぶせになり、唾液を垂らしながら立とうとしている。

まだ試合は出来るんだ、ぼくはママの口から吐き出されたマウスピースを手に取った。

今日は相手が強いってママは知っていた。だから特注で肉厚のマウスピースを作ったんだ。

役には立ったらしい。そのマウスピースは唾液のみで血は付いていないし、歯も折れて無いようだ。

それをママに突き出すと、ママは受け取らずにじかに口を運んできた。ぼくの人差し指と親指が

ママの口の中ににゅるっと入る。とっても暖かい。何で見た目は綺麗なのに、マウスピースはこんな

ひどい唾臭い匂いを出しているんだろう?そう思っていると、ママの歯にマウスピースがはまった。

口から指を出すと唾液が物凄くついた。匂いを嗅ぐと、そんなに臭くは無い。

きっとマウスピースは口の中の…歯茎とかほっぺの部分とか、全部匂いが染みているから臭いんだ。

 

 ママは立った。ギャラリーからは拍手が聞こえ、応援も飛んでいる。ぼくはホッとした。

純粋に選手としてみてくれている人もいるんだ。

 

 そしてママはファイティングポーズをとる。覇気って言うのかな、燃えてるカンジだ。

そして相手は…。

ブルーの髪をグローブでさっと掻き分けて、余裕のある表情をしている。

ママの右ストレートが、ぶん!と音をたてて放たれた。

でも首を傾けるだけで相手は避けてしまった。そして逆にボディを打たれて、ママの動きは止まった。

歪んだ顔は紫色の痣になり、腫れて左目を舌から圧迫している。多分あまり見えてないんじゃないかな。

 

 ぼくはもう諦めている。だから無駄に応援をしていない。地下ボクシングの魅力は勝つだけでは無いから。

バン!ぐじゅっ!

 今度は左フックを食らって、ママはマウスピースを吐いた。

さすがに肉厚なだけあって、普通みたいにボトンボトンは寝ない。重さがあるから。

でも唾液を撒き散らしながら、ゴロゴロと転がるのもぼくは好きかな。

ママのマウスピースはぼくの目の前に転がった。うっすら血が滲んでいる。

歯型がついてグロテスク。そしてそれは口の中の匂いを表すように唾より強烈な匂いがする。

汗で染みたグローブとかだと普通に納得できるけど、マウスピースだけはとってもえっちだ。

異常な間隔かもしれないって悩んだんだけど、インターネットで調べたらぼくみたいな人がたくさんいた。

やっぱり、えっちだよね。

 

 ぼくはママのマウスピースを拾った。改めて見ると、肉厚のせいで歯型が深く食い込んだようにデコボコ

している。そしてその溝を埋めるように唾液が絡んでいる。ママのあそこみたいに、角度を変えて

持つとニチャニチャと音がする。唾も、ママのあそこから出る液体みたいだ。

 

 ママはダウンをこらえて、殴られながら必死に立っている。たまに飛んでいた唾に、血が混じってくる。

腰がガクガクして、もう負けるのは時間の問題だ。

意識が飛ぶっていうのかな?もうギリギリまで追い詰められている。

ぽたっとママの足元に大粒の汗が。と思ったら違う。

ぽたぽたぽたぽた、とどんどん激しくなり、勢いのあるおしっこが履いているトランクスを通じて垂れ流されて

いる。本当ならもう気絶してるはずなんだな。ちょっと危ないと思ったぼくは、係りの人にマウスピースを

渡してもらうように頼んだ。

少し休戦。ママはマウスピースを口に咥えた。これでダメージが減るかな。

 

 

 時間は過ぎ、ママのマウスピースは口から盛り上がり、血まみれだった。

もう両方の目が見えないだろうって位に腫れている。おっぱいには自分の吐き出した液体が口から流れ、

べとっと付着している。そして相手はそんなママの吐き出す液体を返り血みたいに浴びていた。

 

 最後のアッパーは凄かった。勿論相手が打ったアッパー。

ママの体が少し浮いた。血みどろのマウスピースが口から吹き飛んで高く高く舞い上がる。

そしてスプリンクラーみたいに、水じゃない、血と唾を回転させながら撒き散らす。

 

 マットに叩きつけられたママは、大きく痙攣みたいに、あおむけの状態で腰を上下させている。

確か、えっちな事をしてて、最後には今みたいに体をくねらす。だから気持ち良いのかもしれない。

さんざん皆の注目を浴びたマウスピースがやっと落ちてくる。

べしゃっ!と音がしてマウスピースがマットの上で歪み、粘液が射精みたいな勢いで飛び散った。

 

 

 結局、案の定っていうのかな?ママは負けた。青い髪の女の人は、当然といわんばかりの顔をして

両手をあげて勝ちをアピールしている。そしてその近くには集団リンチにあったみたいな、ひどい痣を

体中に付けたママが横たわっている。

 

 リングにお客さんより近いからわかるんだけど、マットの上はむせ返るようなママの匂いでいっぱいだった。

DVD化されたら、またせがんでみようと思う。