地下女子ボクシング養成学校であるA地区にて、小百合と美由紀は一歩一歩と卒業を目指して戦いを続ける。
そんな中、小百合は挑戦状を叩きつけられた。個人的試合、言い換えれば喧嘩を売られた。
一見スパーリングだが、内容は試合。マウスピースを懸けての試合では無い。
相手はヤチルという、ある派閥のボスだった。
小百合は美由紀に言わず、あまり面識の無い知人をセコンドにお願いした。
それは(美由紀に頼らないように頑張らないと)という気持ちからだった。
試合の場となる練習場は、ヤチル派が他の生徒を全て排除していた。
リングの上ではヤチルも小百合も、トップレスに下半身は裸だった。
ヤチルはピンクのツインテールに、やたらロリ顔で背はあまり高くなかった。
バストもAカップ位しか無い。
陰毛は黒くて濃い。小百合は喧嘩を売られたにしても、あまりにも相手が華奢(きゃしゃ)に
見えてしょうがなかった。だがもうお互いリングの上に上がっているので気は抜けない。
試合開始のゴングが鳴ると、ヤチルは子供の様なキンキン声で話し出した。
「美由紀って知ってるでしょ?アンタのおもりしてる奴さぁ。最近調子に乗りすぎてるよね」
「おもり?ただの友第だよ!」ムッとして小百合は言い返す。
「そうか?いつもベタベタして、媚売ってるみたいに見えるから、アンタからやっちゃおうと思ってね」
そう言うと、ヤチルは右ストレートを飛ばして来た。
確実にブロック出来るスピードだ。小百合は両腕でガードした。
メリッと音がして激痛が走る。
「ッツっ!」小百合が顔をしかめる。明らかにパンチが重すぎる。
(グローブに何か入れてるな……)
小百合が険しい表情になる。ヤチルはニヤニヤと笑っている。
「1ラウンドでアンタが再起不能になればいいの。公式試合じゃないから立会人もいないしね」
ヤチルが言うと、小百合はレフリーがいない事にやっと気がついた。
(こ、こういう場合は逃げるしか……)小百合はそう考えるのに精一杯だった。
だが出入り口にはヤチル派がいる。それにセコンドの娘もいるのでほって逃げるわけにもいかない。
「じゃあいくよっ!」
ボディあたりにヤチルのパンチが飛んでくる。
ひとまず小百合は後退した。かわせば、問題無い。
しばらくそれを続けると、スタミナはお互いに減ってきた。そのハズだった。
「確かにグローブに何か詰めてあるかもしれないよ?ただ、それが片手だけだったら?」
そう言われて、小百合はやっと気がついた。
もしそれが本当で、何も細工していないグローブで、あえてゆっくりパンチを打っていたとしたら……。
「アンタ、避けてばかりでスタミナ消耗してるでしょ、汗かいて肩で息してさ」
ヤチルは全く疲れていない様子だ。小百合の頭には「逃げたい」ばかりが浮かんだ。
「多分さ、最初の一発のガードで、あんたの腕にヒビが入ったハズなんだ、そういう音したもん」
言われる通り、両腕のガードした部分の痛みが止まらない。
「チェックメイトだね」
ヤチルの声に、派閥の皆が笑う。
(美由紀だったらどうする?美由紀だったら……)
「あの!」小百合のコーナーから声がする。
「どうも、デンコって言います。小百合さん、美由紀さんだったらこう言うと思いますよ」
小百合も美由紀の言葉を思い出した。
「やっちゃえ!」小百合とデンコがシンクロして言った。
小百合は迷わず突っ込んだ。
ヤチルは急いで右拳、細工している方を打ってきた。
グシャッ!と音がして小百合の顔面に思い一発が入った。
だがそのまま小百合はスピードを落とさない。
最大の武器、腕を捻りながらの「メイルブレイカー(鎧を貫通するような意味)」を打つ。
それはヤチルの頬にヒットして、なお回転を続けて頬をえぐる。
捻られて口から押し出されるように、ヤチルはマウスピースを吐いた。
ねじれたマウスピースは床にビタンと跳ねると、元の形に戻り、何度か跳ねた。
フラッとヤチルはダウンした。小百合の顔面から拳が離れる。
小百合は鼻血を両方から出し、口を切ったのか、咥えたマウスピースに血の筋を作っている。
そして「ごほぁっ!」と、口に広がる鉄臭い血を吐き出した。
それと同時に、「ゲボッ」と、ヤチルは唾液を大量にリングの上に吐き散らした。
だがヤチルは笑っている。
「メイルブレイカーだっけ?やっぱり腕を最初に封じたのが良かったのか、思ったほどのダメージ
じゃあないね」
そう言ってマウスピースを拾って咥えると、ヤチルは立ち上がった。
(このまま腕をやられて……再起不能になったらもうここにはいられない)
小百合が悩んで集中力を失った時。
ドスッ!
ヤチルの左拳が突然小百合のボディに突き刺さった。
「おぐっ!」小百合が前かがみになる。
「本当はスピードのあるパンチ、動きがウリなんだよね、私は」
ヤチルはそう言いながら、ボディに突き刺さったままのパンチをさらに捻って奥へ奥へとねじ込む。
内臓が、かき混ぜられるような想像を絶する苦しさが襲ってくる。小百合の顔面は青く変化した。
「動けないでしょ。私は背が低いからアッパーぎみにボディに打てるし、アンタのメイルブレイカーだっけ?
それも、私は既に会得してたんだよね」
小百合にそれが聞こえていたかは分からない。ただ苦悶の表情をして体を小刻みに揺らしている。
ズボッと音を立てて小百合のボディから拳が抜けた。
ベチベチベチッ!と水を叩きつけるような音がする。小百合の何も履いていない股間から尿がほとばしる。
そしてそのままうつぶせに倒れ、20秒程、尿を後方に飛ばした。
「ガプッ……」小百合は苦しさから、血まみれの内臓のようなマウスピースを吐いた。ベチャリベチャリと
マウスピースは血で魚拓のように形を残しながら転がる。
「しっこ漏らすなよ、汚いし臭い!……そして、あんたは詰んだッ!」勝ち誇ったようにヤチルは高笑いをする。
(やられ……た……)小百合はあまりのボディの苦しさと今の状況に、敗北を感じた。
「1ラウンド終わるのってなかなか遅いねぇ、立たせてやろうかね」
ヤチルが笑いながら言う。まだ小百合を痛め足りないらしい。
小百合の右おさげがヤチルの左グローブに引っ張られる。まだ小百合は立てる状態では無い。
力なく顔だけ浮いた状態になっている。
ぼぐっ!
細工のある右拳が小百合の左頬を殴った。尋常では無い程に顔が歪み、射精するように口から血を飛ばす。
ぼぐっ!ぼぐっ!ぼぐっ!
何度も何度も重いパンチが執拗に打たれる。
血は口からどんどん溢れ、醜く顔を歪ませて、小百合の左目はふさがって見えない程になっている。
「コピー女が!美由紀から戦い方をコピー、私からメイルブレイカーをコピー、個性が無いのさ、あんたには」
そう言った後、ヤチルはおさげを下に引っ張った。
ぐしゃっと小百合の顔面がマットに叩きつけられ、血を放射状に散らした。
「コピー?少なくともメイルブレイカーはコピーじゃないような気がしますよ」
突然、小百合コーナーのデンコが言った。
つづく