「だってぇ、回転の質があるでしょ?」

デンコは続けて言った。

ヤチルは気に入らない様子で、デンコを睨みつける。

「私がメイルブレイカーのオリジナルだ!」

「いや、ヤチルさんのは、ただのコークスクリューだよ」

デンコはひょうひょうと言い続ける。

 

「メイルブレイカーってさ、鎧を粉砕するとか、鎧を貫通するって意味で

名前がついたんだよ?」

 

「じゃあ、オリジナルのメイルブレイカーを見てろ!」

ヤチルはそう言って小百合を睨みつける。

小百合も睨み返し、呼吸を整えながらゆっくりと立ち上がる。

リングの上に叩きつけられた額から血が流れ、顔を赤く染めている。

「これがメイルブレイカーだ!」

ヤチルは拳を回転させながら、仕込みのある右グローブを小百合の腹に

ぶち込んだ。

どん!

コンクリートの壁を殴ったような音がした。

あまり手ごたえが無い。

 

「腹筋をフルに使ったから、あまり聞かないね」

小百合はそう言いながら、額から流れてくる血をグローブでぬぐった。

「あんたは……受ける覚悟ある?」

じりじりとヤチルへ近づきながら小百合は静かに言った。

 

「腕が折れてもいいんだよ!」

 

小百合は気合と共にメイルブレイカーを打った。

 

まず、ヤチルのガードをはじき飛ばした。

 

そして、腹筋の強そうな腹へ目がけてめり込んだ。

 

ガードや鍛えられた腹筋にさえ滑り込むようにヒットする。

それが、メイルブレイカーだった。

ヤチルは前かがみになって目がイっている。

「ぐっ……」

小百合は今打った右腕を押さえた。パンチを出すのもそろそろ限界かもしれない。

 

「おげっ……」

ヤチルは胃液を戻しそうになっている。かなり効いたらしい。

そのまま、のめりこむようにヤチルはうつ伏せにダウンした。

口から内臓が吐き出されるかもしれないと思える程に強烈だった。

「ゴボ……」

内臓の代わりに、ヤチルはマウスピースを吐き出した。

顔の横に転がったそれと、ヤチルの口まで唾液の糸が続いている。

 

(立つな!立つな!)

小百合はただ願った。これ以上戦うのも限界だ。腕のホネがギシギシと音を立てている。

 

(アレ?こいつ、ヘタレで有名じゃなかったっけ?)

ヤチルは起きようとしながらも、焦っている。

小百合はヘタレで有名。おかしいと思っていたが、ヤチルは気がついた。

(こいつっ……試合の中で成長するタイプかっ!)

悔やんだが、小百合はもうあまりパンチを打てない、そしてスタミナも

残っていない事にも気付いていた。

 

「ぬーっ!!!」

ヤチルが一気に気合を入れて立ち上がった。

「とんでもないパンチを打ちやがる。だがこれはリンチだ」

そう言って手で合図すると、わらわらとヤチル派がリングの上に乗り込んできた。

四人がかりで小百合は動けないように押さえつけられた。

「そのまま顔面にキツいのを食らって脳に障害残すか、私の派閥に入れ」

小百合は精一杯、振りほどこうとするが、今の体力とパワーでは意味の無い事だった。

「メイルブレイカーは認めてやる。だから私の派閥へ加わるんだ!」

 

小百合は首を左右に振った。

「そうか、じゃあお望みどおりフルスイングで顔面を打ち砕いてやる!」

ヤチルは勢い良く腕を引いて、体重を乗せる形でストレートを打ってきた。

 

「そう、それでいい。」

小百合はそう言って、ヤチルを馬鹿にするような笑みを浮かべた。

 

 

「冷静さって、必要じゃない?」

 

 

小百合はそう言うと、押さえつけられていた状態からスッポリと抜ける。

「脱力しながら、押さえられているかどうかギリギリの所で、押さえつけられているフリをしてた」

 

「は?」

既にヤチルはストレートを出している。

「いいスピード。これなら半分の力で打てるね

 

(え? 打てるの?)

 

グワシャッ!!

 

「油断させて無防備にしてパンチを確実に当てれるようにする。そして相手の勢いで半分の力でパンチが打てる。

分かった?」

小百合の言葉が聞こえているか聞こえていないかは定かではない。ヤチルの顔面にヒットしたメイルブレイカーは、

突進力が相手によって追加されて、鋭く思い要素も加えられていた。

小百合が拳を顔面から話すと、血がぬちゃりと、大量に付いてきた。

ヤチルは血を口から吐き出した。小百合の顔にも、血が雨を浴びるように付着する。

 

「わたしはっ……派閥のボスだからっ……」

ほぼ白目になりながら、ヤチルはよく分からない事を言い出した。

「そ、そうだこれ、これだ。仕込みグローブだ」

ヤケクソかどうかは分からないが、右グローブでヤチルはフックを打ってきた。

 

 「良かった……攻略法のあるパンチで」

小百合は呟いて、フックをかわした。

「仕込みの入ってるグローブは重い。だから振りぬいて隙が出来る」

ヤチルの右の脇腹にパンチがズン! と突き刺さった。

「この近距離だと、腕に負担かけずに腰をひねって打てるからね」

(何……こいつの成長の早さ)

血を吐きながらヤチルは絶望的な気持ちになり、全身の力が抜ける。

そのまま倒れそうなヤチルを、派閥の人間が抱きかかえる。

ベチャベチャと突然透明な胃液を大量に吐き出して

「覚えてろ……」

と言った後、ヤチルは完全に白目になって気絶した。

ごぽっごぽっ

音をさせながら、気絶した状態で泡まで大量に吐いた。。

「終わった……」

小百合はその場に座り込んだ。当分動けそうに無い。

天井を見上げると、カメラが設置してある。

「え? カメラ? おしっこ漏らしたのも録画されてる!?」

小百合が後で知った事だが、校内放送で試合は流れていたらしい。

 

結果。次の日から「ヘタレ」と呼ばれる対象が、小百合から「ある選手」に変わった。