【俺の妹二人組】

 

「紗菜、マウスピース」

明日菜が口を開けていった。

「え?あ、ごめん洗ってなかった」

紗菜が笑いながら血みどろのマウスピースを突き出してきた。

いつもの様に巨大なマウスピース。血みどろだと本当に内臓のように見える。

そして唾液は血と混ざり、蜂蜜を垂らすように粘度の高い液体が滴っている。

「洗ってないんだ……」

明日菜は性格上、実の妹にもガッ!と怒ることが出来ない。

ただ笑いながら突き出されたマウスピースを口の中に入れるだけだ。

口の中には唾液や血が溜まっており、マウスピースが追加で入ってきた分、口の端からドロドロと垂れる。

 

「行ってくる!」

今までに無い程、今日の明日菜は頑張っている。ボコボコになりながらも8ラウンドまで何とか来る事が出来た。

 

兄は弁当を食べている。

 

 今日の明日菜の相手は、特に体格差も無く、気の強いスタイルでは無いので一発で大きなダメージを受ける事は無い。

だが、何故、明日菜だけがボコボコになって行くのかは、不思議だ。

 

一発のストレートが明日菜の頬に叩きつけられ、そのまま場外に向かって明日菜の唾液が飛沫のように散った。

 

「来たっ!くっさ〜」

それをまともにかぶった紗菜は迷惑そうに言う。

紗菜のTシャツは唾液をかぶりすぎた為に透け、ブラジャーを着けてこなかったせいで乳首が透けている。

二発、三発とストレートが的確に打たれ、明日菜はその衝撃で幽霊のように体を左右に持っていかれた。

 

 ゴププッと音がした。

 

対戦相手は胃を押さえ、舌を突き出すと胃液を吐いた。

明日菜のボコボコにされた顔を見て、耐えられなかったらしい。何度か胃を収縮させながら胃液を足元に吐く。

涙目になりながら、とりあえず落ち着いた対戦相手は口から胃液の糸を垂らしている。

 

 明日菜の逆転があるかと思われたが、明日菜も、もらいゲロをしてしまった。

相手の胃液の上に、自分の胃液をこれでもかという位に吐き出す。

そしてあまりの苦しさから、明日菜の大きなマウスピースは自らの舌によって押し出され、落下した。

 

子供がふざけて、長靴で水溜りを踏みつけたように、二人分の胃液が散った。

相手も、そうすれば少しは楽になると思ったのか、同じようにマウスピースを突然吐き落とした。

明日菜の大きなマウスピースの上に、普通のマウスピースがベチャッ!と乗り、異形のヌルヌルしたオブジェのように見える。

やがて明日菜のマウスピースの歯を入れる窪みは大きく、相手のマウスピースをスッポリと取り込んでしまった。

 

「ああ……汚い」

相手選手がそう言って溜息をついた。

そういえば対戦相手はデビューしてからあまり経っていないようだ。始めての明日菜との試合で衝撃を受けている。

どうやって明日菜のマウスピースに絡んだ自分のモノを取り出すか、グローブで試みるが、なかなか難しいようだ。

その内、相手はイラッとしたのか、明日菜を睨みつけると思い切りストレートを打った。

紗菜の目の前に明日菜はだらんとロープに、外を向いて寄りかかっている。どんどん明日菜の頬が膨らんでいく。

 

「ぶバッ!」

 

唾液がバケツから水を捨てるように豪快に紗菜に降り注いだ。

「臭すぎだって〜!なんでそこまでツバが出てくるのよ!」

紗菜は既に明日菜を応援していない。

 

そして10ラウンドまで行き、試合が終わった。明日菜の初の引き分けとなった。

 

相手選手が寄ってくる。

「あの、明日菜さん」

明日菜は健闘を称えあって握手をするのかと思い、右グローブを出した。

「あのマウスピース頂けませんか?フェチなもので……」

それを聞いて明日菜は緊張の糸が切れ、口から残りの唾液を対戦相手に吹きかけた。

「これを何度吐きかけられた事か……。いや、もう臭くて最高でした」

対戦相手は幸せそうに言うと、勝手に明日菜のマウスピースを掴んで持って帰った。

「あれできっとおなにーするんだよ!柔らかいからマンコの穴にも入るし!」

紗菜は面白そうに言ったが、明日菜はぶっ倒れて動かなくなった。

 

その頃、兄は会場の厨房で、だしまき卵の味の秘密についてシェフに質問をしていた。