奈弾さんは嫌いらしい

 

「ありがとうございます」

めろんは購入した真空パックされている遥のパンツを手に、キリトリヤの中をウロウロしている。

「この店ってたまに変なモノを売ってますよね。ほら、このカードゲームとか」

めろんがそれを手に取る。

 

「それ、私が版権買い取って作ったエロいカードゲームです」

 

「版権? よく分からないんですがエロいんですか」

 

「ええ、エロいです。さっさとパンツ嗅いでオナーすればいいのに」

 

「は? メイメツさん?」

 

「何でも無いですよ。この町に平気で出入りしてる長居レンナさんって方から版権買い取ったんです」

「へー、そんな人がいるんですね」

 

「ええ、爆さんの一・五倍は馬鹿です」

 

「メイメツさん……一応爆さんもお客さんなんですから……」

 

「ええ、ですから一・五倍です。他人だったらどっこいどっこいの馬鹿ですね、両方」

 

(へー、メイメツさん本音分かりやすいねー)

「とりあえず今日は帰りますね」

めろんは軽く会釈すると店を出ようとした。

カーフィルムのように外から店の中は見れないが店からは外が丸見えになっている。

外で奈弾が腕を組んで立っていた。

「奈弾さんだ……」

めろんは立ち止まって購入したパンツをスカートの下に挟んだ。

「よし!」

めろんは何気なく店の外に出た。

 

「奈弾さん、どうしたんですか? 今日も長い黒髪がサラッサラですね」

 

「あ、ああ……ありがとう。ちょっと聞きたいんだけど遥はいないかな?」

奈弾は照れくさそうに自分の髪をサラッと撫でると言った。

 

「爆さんと試合探しに行きましたよ、夕方には帰ってくるんじゃないですか?」

 

「そうか。ケータイ忘れてきたんで連絡取れなくて」

 

「あ、ボクのケータイ使いますか?」

スカートのポケットに手を入れると、すぐに内側から購入したパンツが落ちた。

 

「落としも……」

奈弾がそれを拾おうとしたが、硬直した。

 

「……奈弾さん」

 

「……はい」

 

「見なかった事に……」

 

「あ、ああ。何も見てない」

 

めろんは、あえてゆっくりそれを拾い、溜息をついた。

 

「あの……この事、遥さんにな内緒に……」

 

「大丈夫。男……だもんね。遥のパンツって自分で言っちゃってるけど」

 

「ええ。(奈弾さんは真面目なタイプだから話しづらいなぁ)」

 

二人の微妙な間に、顔を腫らした遥が割り込んできた。

「どしたの? 奈弾さんがこの店の前に居るだけで不思議だけど」

 

「ああ、この店は……嫌いだけど遥を探してて」

 

「私を探してたんですか? 私もこの店嫌いなんで居るわけ無いじゃないですか、今も

試合会場にいたんですから。 爆をぶちのめしたら口から泡吹いて気絶してましたよ、アハ、アハハハ」

遥はそう言いながら無理やり笑顔を作る。

「だが実際……いや、何でも無い。遥に情報を聞きたくて」

奈弾はひどく挙動不審だ。

 

「うおおおおおおぉぉぉぉ!」

三人が沈黙する中、爆が救急車に追いかけられながら走り過ぎて行った。

 

     今年は

 

遥はズキズキ痛む頭に手を当てて起きた。

「えーと、あれから奈弾さんと居酒屋で飲みながら……めろんいたっけ? まあ居ても居なくてもいいけど。 いや、居たほうがいいな。

 今年のC地区地下女子ボクシングのイベントについて話したんだっけ。それにしても飲みすぎた。痛つつっ」

四畳半のゴミだらけになった部屋を見渡すとその酷さに余計頭が痛くなる。

 

「あれ……これゲロ? 私? 私しかいないよね」

ティッシュを取りながら遥は溜息をついた。

 

「一人暮らしかぁ。体張ってボコボコになりながらの生活だしな、私を人間国宝にしてくれたらこんなメに会わずに済むのに」

そう言った途端、遥は洗面台に走った。

直にゴボゴボッと胃液を吐き出して、それを流しながら落ち着くのを待つ。

「こりゃ二日酔いだ」

備え付けのタオルで口を拭くとその場にへたり込んだ。

「あー、彼氏欲しい。あとはお金」

遥はそう言いながらパソコンを置いてある机まで這って移動する。

「えーと、まずはめろんのHPを見て……あれ? 人が殺到してる。エロい書き込みばっかり! どこか変な所からリンクされたのかな?」

遥は一通りHPを確認すると、自分のメールボックスを開いた。

「……相変わらず匂いフェチの人が多いな。結局人気有るのは良い事だけど……体臭が目的ってのも釈然としない」

 

パソコンの前でボーッとしていると、突然入り口の戸が開いた。

「おわっ! 誰?」

遥は急いで開いた戸の方を向くと、めろんがにこやかな笑顔で右手を振っていた。

 

「あ、めろん! 遊びに着たんだ! カワイイなぁめろんは」

遥のやるせない気持ちが少し楽になった。

「株で今回結構儲けちゃったんで、奮発して高いケーキ買って来たんですよ」

 

「うお! 本当? あがってあがって、お茶入れるから」

 

「なんだかこの部屋、ゲロ臭……あ、いえ何でも無いです。所で遥さんはもんじゃ焼きとか好きですか?」

 

「あ、うん。そこは普通にゲロ吐きました? って素直に聞いてくれたほうがダメージ少なかった」

 

「いやぁ、すみません。お酒臭いんで飲みすぎたんですね。苺のショートケーキなんですが、ふんわりクリームを多めに使って胃にも優しいと思いますよ」

部屋の真ん中の机の前にめろんは腰を降ろして、あぐらをかいた。

「ケーキここに置いときますね」

 

「ケーキって一年ぶりだよ。大好きなのに」

 

「遥さん……財政難が続いてるんですね、だからさすがに滅多に売らないパンツもメイメツさんの所に売ってあったんだ」

 

ガチャン

 

台所の洗い場に遥がキュウスを落とした。

そして振り返ってジトーッとした目でめろんを見る。

 

「買ったでしょ……」

 

「……ケーキ食べませんか?」

 

二人は向かい合って言葉を交わすことなくケーキを食べた。

 

しばらく沈黙が続いていたが、遥は真面目な顔で言った。

 

「私だって一応女なんだよ?」

 

「わかってますよ。ボクだって遥さん自身が欲し……いやいやいや、わかりますよ、女性ですよね」

 

遥はそのジトーッとした目のまま少し赤面した。

(めろんちゃんも男の子だからな、誰とでもヤりたいんだろうな〜。 実はめろんちゃんの事を結構好きなた私である)

 

「あの、めろん? えーと、実は今日安全日なんだ」

 

「大安の日ですか? カレンダーには仏滅って書いてあったハズですが……」

 

「えーっと、はっきり言うよ?」

 

「え? はい。何ですか遥さん、改まって」

 

「つまり私と……ヴォェーッ!」

 

「あーっ! 遥さん、ゲロにはエチケット袋!」

 

「吐いてからそんなもん用意してどうすんのよ」

辛そうに息を吐きながら遥は言った。

 

「まあ、ちょっと寄っただけですし、ごゆっくり養生して下さい。帰りますね」

めろんはそう言うと立ち上がった。

 

「あっ! えっ! めろん」

 

気が付くと遥はめろんのスカートを掴んでいた。

 

「めろん! 座れ!」

 

「あ、はぁ」

めろんは再び腰を降ろした。

 

「私は今年のイベントに出る。大金が入るんだ、試合仲間が出る度に精神に傷を負ってこの町から出て行くんだけど……優勝してお金もらって勝ち組なスタイルでこの町から出て行くつもりなんだ」

 

「イベント……ですか。凶事らしいですから、ボクとしてはあまりやって欲しくないですよ!」

 

「いや、ずっと思ってたんだ。このままじゃいけない、町を出て普通に働いて結婚して……そして夫とヤリまくる!」

 

「はあ、要するにヤリまくりたいわけですか」

 

「そう! ヤリまく……ちょっと口が滑った」

 

「じゃあ出場申し込みもされたんですね、それならもう止められませんが……」

 

「で、イベント参加条件は処女ではいけないという事なのよ」

 

「そうなんですか、メイメツさんの所にバイブが売ってありましたよ?」

 

「いや、もうね、言っちゃう。抱いて」

 

「ちょっ」

めろんは突発的に赤面した。

 

「ヤリマンとか言ってもいいからさぁ、貫通式をお願いします!」

遥は土下座をしている。

 

「何故、土下座のフォームがそこまで綺麗なのかは知りませんが、お断りします。だったら出場も止められますよね?」

 

「くっ……そういう手が有ったか」

 

「ええ、ボクは遥さんが大事ですから」

遥の胸が跳ね上がった。

 

「めろん! そう思うならイベントなんてどうでもいいから……私を」

 

遥が言いかけた所で入り口のドアがバーンと開かれた。

 

「よーっ。って、おおっ? おおおっ! なーにを二人でイチャついてんだ?」

 

爆だった。

 

(タイミング悪っ!)

(タイミング悪っ!)

一瞬、遥とめろんは相思相愛になった。

 

「いや、めろんを探してたからなーっ! 処女だと今年のボクシングイベントに出れないみたいだから、ちんこ入れてくれ!」

 

「はぁ? ボクのですか?」

 

「そうだ、アタシが脱いだら立つんだろ? ボクサースタイルでヤってもいいぞ」

 

「いや確かにボクには人並みのモノが有りますが、ちゃんとそういうのは好きな人に……」

 

「え? アタシはめろんが好きだぞ?」

 

「ええっ!? ボクってそんなにモテるんですか? ボクのキャラ性とかスタンスを返して下さい!」

 

「お、おーっ? 何いってんだ?」

 

「とにかく、ボクは遥さんの使用済みパンツと縛さんの使用済みがあれば生きていけるんです!」

 

「お、おーっ! それ食って生きてるのか?」

 

「いえ……主食ではありません。オカズです」

 

「なーっ! 上手いこと言うなっ!」

 

「待て!」

今まで黙っていた遥が怒鳴った。

 

「めろんのちんこは私のモノなの! 先約済み!」

 

「お、おーっ? 取り合い合戦やるか?」

 

「もうやめて下さい!」

めろんが大声を出したので遥と縛の目線がめろんへと移動した。

 

「ボクのちんこで二人が争うならいっそ、切ってきます! 」

 

「お、おおー、ちんこ切るかぁっ! なら喧嘩せずにする方法あるぞっ!」

 

「解決策があるんですか? 爆さんのこの物語としてのスタンスもぶれ始めてますよ、設定上馬鹿なんですから」

 

「あんな、遥。アタシとガチでボクシングの勝負しようや。勝ったほうがちんこをゲット!」

 

「よし分かった! 負けてもうらみっこ無しね!」

 

「お、おーっ! じゃあ今から奈弾さんの通ってるジムを借りようぜ、あそこリングあったからさっ!」

 

「そうね、ガチの試合なら許してくれるでしょう。行こう!」

 

「あのー、まあ喧嘩せずに後腐れ無しならボクもいいんですが……。 一言で言うと二人とも、ものっそ馬鹿ですね……。

爆さん? 何照れてるんですか? これ褒めてるんじゃないんですよ?」