小百合は椅子から立ち上がった。丸山の用意していたレモン濃縮汁のお陰で眼が覚めたような気がする。

美佐子はゆっくり立ち上がる。

 

「……もう余力が無いみたいだすね。わたすはこれでA地区に名が広がり有名選手だす!」

ゆっくりと二人は距離を縮めて行った。

少し美佐子が気を緩めているらしい。小百合は何か打たなければと一瞬考えた。

(この距離なら!)

 

「メイルブレイカーだっっっ!」

 

回転する小百合の拳が美佐子に迫る。

 

美佐子は右グローブを突き出して野球のキャッチャーのように拳を掴んだ。

流石に掴んだままは回転力が強すぎるので放り投げるように美佐子は手を振った。

空しくメイルブレイカーが回転力を残したまま宙へ浮き上がった。

「メイルブレイカーって名前、もうやめた方がいいだす。攻略法はごくごく簡単」

そう言って美佐子は満足そうな顔をする。

「舞風もわたすが不規則な動きをすれば役に立たない。完全勝利だすよ」

 

小百合の精神力がみるみるうちに減っていく。攻撃は止められ回避能力は自分より上。

ひょっとすると自分はその程度のボクサーだったのかと思ってしまう。

 

(圧倒的にわたすの場に飲み込んだだす。)

既に美佐子はフィニッシュブローの想定をしている。

A地区では新しい技が出ると即座に観客が、設置されているキーボードに名前を書き込む。

それを運営スタッフが採用OKを出すとリングの上にある四面の大型ディスプレイへ

名前が書き込まれその選手の技名となる。

 

それは小百合のメイルブレイカーという名前をファンが決めて呼び始めた頃から始まった。

「必殺技が出ると盛り上がる」と判断されたからだ。

美佐子はそれも狙っていた。

 

 

(右グローブで掴んで止められた……右! そうか!)

小百合は全身の力を振り絞った。

(常に強さに貪欲で有れっ!)

 

「動けぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!」

小百合が選んだパンチは右ストレートのメイルブレイカーだ。

 

美佐子は冷静にパンチをキャッチ、そして流すように振り払う。

 

 

だが小百合のメイルブレイカーは両手で打てる。血の滲むような特訓の成果だ。

すぐに左ストレートのメイルブレイカーを打つ。

「うわっ! ちょっ!」

美佐子は何とかそれをもう一方の片手で受け止める。

「驚いただす〜。両手で打てるとは……あぁぁ?」

美佐子はメイルブレイカーを掴んで止める訳では無いので小百合の片手からは更にメイルブレイカーが

打たれる。美佐子は必死に回避をするが小百合のメイルブレイカーのスピードが加速して来た。

 

グシャァッ!

 

時間の問題だった。小百合のメイルブレイカーは美佐子の顔面を粉砕するが如くブチ当たった。

 

「ぐはぁっ!」

美佐子が仰け反った。

(よく考えるだす! これに耐えたら勝てるだす!)

 

「凱旋門!」

美佐子はのけぞったまま停止をした。小百合はすぐに動き回り込んで顔面にパンチを打ち込もうと

移動しようとした。

 

美佐子はコンパスで描くように腰からどの動きにも

回転が出来るようになっていた。それでいてどの方向からもパンチを

打てる。死角の無くなった状態だ。

美佐子は小百合が回りこんでくるのを待った。

 

だが

 

小百合は距離をとっており、美佐子のパンチの届かない位置にいた。

 

「……凱旋門は突発的にやるから意味があったんでしょ! わざわざロスタイムを作っちゃしょうがないよ」

小百合にそう言われ、美佐子はドッと汗をかいた。

「そ、そう言われれば」

美佐子はゆっくり起き上がった。

 

大型ディスプレイに小百合の放った連打型のメイルブレイカーが技として認められたらしく名前が載った。

 

「B・B(ブレード・オブ・ブレイド)サイクロン

ブレードは刀、ブレイドはおさげという意味だ。

 

美佐子は一気に流れが小百合ペースになったと感じた。そして忘れていたようにB・Bサイクロンのダメージが

襲ってきた。

 

「ぶぇほっ!」

 

美佐子の口に溜まった大量の血が吐き出された。その中にマウスピースも混じっていたらしく、

振り落ちる血に混じってビチャンと跳ねた。地で真っ赤に染まっている。

 

ガクガクとする足に液体が垂れる。美佐子は立ったまま失禁を始めた。

もう立っているだけで精一杯なので一向に気にしていないようだ。

口から血を垂らしながらニヤリと美佐子は笑った。

それは余裕からでは無く拳闘をする者にとっての戦う喜びを感じたからだ。

 

(このレベルで美由紀ちんと戦っていたんだすか……全くわたすは小百合ちんを見る眼が無かったんだすね)

 

そこへゴングが鳴った。

 

今度は美佐子がその音と共にその場に崩れるように座り込んだ。

 

 

「美佐子、血が止まらないですわね……」

ZEROが美佐子の口を拭きながら言った。

「へへっ、口の中はズタズタだすよ」

そう言いながらうがいをしてバケツに真っ赤な液体を吐き出した。

美佐子は1ラウンドが終了した時には清清しい中、少し汗のこもったような大体臭を発していたが

妙な生臭さをZEROは感じた。

「なんか興奮してるみたいだす……美由紀ちんと小百合ちん見ててレズだと笑って見ていただすが、

拳闘の快楽というそのもの……それに興奮してしまうんだすよ」

「そうなんですの? それより試合に集中して……」

そう言いながらZEROは失禁した部分をタオルで拭きながら手を止めた。

ブルマの下に下着は着けていないので性器の形がクッキリと見えてしまうのだが、美佐子のその部分は

ぱっくりと充血して開いている。そしてある一点から尿だけでは無い、ねばっとした液体がタオルに

付着して糸を引いていた。

ZEROは何故、生臭い匂いがするのかを理解した。思わずZEROの頭に美佐子とセックスをしている

情景が浮かんだ。

男性器がどういったモノかよく分からないが、挿入しながら汗の匂いと美佐子の女性器の匂いがする中、

狂ったように動き体と体が汗を媒体にしてネチャネチャと絡みつく。

目の前には恍惚な表情をした美佐子が息をハァハァ吐いている。チラリと覗く八重歯が可愛い。

 

ZEROは頭を振って妄想を断ち切った。

「と、とにかく頑張ってね」

 

「……ああ」

そしてゴングが鳴った。