3ラウンドの始まりを告げるゴングが鳴った。

小百合はこの一発一発が命取りになる試合に慎重になり、スタイルを変更した。

美佐子はリングの中央で既に待っている。

美佐子はスタミナや気力では負けていない、むしろこのままたたみかけて試合は終わるように見えた。

 

美佐子は普通に移動出来る。小百合の足はどうしてもフラついてしまう。1ラウンド目の顎への一発が

この結果を生み出したようだ。

 

小百合はこのまま逃げるわけにはいかない、自分から行って美佐子へダメージを食らわせないと点数でも負けて

しまう。しかしこのフラつく足のハンデは大きすぎる。

小百合は長年の戦いのカンで、まず美佐子のパンチが当たらない距離まで寄った。 

(さて、ここからどうする?)小百合は考えた。

 

「がいせんも〜ん」

えっ? と小百合は思った。凱旋門を使うにしては距離が遠い。美佐子は思ったよりもパンチ酔いで

距離感が掴めないのか? と不思議に思った。

 

美佐子はリングの上から降り注ぐ照明を浴びるように仰け反って両腕を後ろにピンと伸ばしている。

そして大きく息を吸い……

 

 

 

吐いた。

 

 

美佐子は腕をモンゴリアンチョップのように振ると反った形から前かがみの体制になり勢いを付けたまま

小百合目掛けて「飛んだ」。

勢いの為にほぼ宙に浮いている状態だ。小百合は冷静に自分と美佐子の間に線を引いて、避けようと

位置をずれた。

だが前への勢いはオートなので、軽くトンと足でマットを蹴る事によって左右に動くだけで標準を小百合に

合わせる事が出来る。

 

「まっ! 舞風!」

 

 

グシャァッ!

 

美佐子は小百合が舞風を使った瞬間に微妙に左右の位置を変え、小百合の顔面にストレートをぶち込んだ。

(確かな手応え……さすがに立っていられないハズだすね)

 

美佐子の思った通り、小百合は体制が崩れて倒れそうになっている。

 

「試合で成長するってこういう事だったんだすか」

美佐子は荒い息で小百合に話しかけた。

小百合は答えない。確実に脳震盪を起こしており、目の前の映像がシャットダウン寸前だ。

 

 

ディスプレイに「ヴェルサイユ」と名前が出た。どうやら凱旋門から一気に攻撃に出た技の名前が決まったらしい。

美佐子が喜びを表す顔をした瞬間、小百合はマットに叩きつけられるようにダウンした。

 

「さあ、完全勝利の為に……小百合ちん、見世物になってもらうだす」

 

小百合は仰向けにダウンをして手足をバラバラな方向へ投げ出し、先程とまでは行かないが、たまに軽く

ビクンッと痙攣を起こしている。

 

(これが美由紀ちんと小百合ちんの到達していた試合……)

美佐子はその世界へ入ろうとしていた。

グローブでぎこちなく小百合のブルマの腰の部分を握り、ゆっくりと脱がし始める。

 

A地区ではレフリーが「カウント不要でもう意識は無い」と判断すれば、倒れている

選手への卑猥な行為が許されている。

よってレフリーのカウントはされず、シーンとした中、それを始めた。

 

ドクンドクンと胸の鼓動が美佐子自身の頭の中に響く。戦いとしての興奮の上昇に比例して

性的欲求も上がる。

ゆっくりゆっくりとブルマを降ろすと、まず陰毛が見えた。

手入れはされているが蒸したように湿っており、汗の匂いが湧き上がる。

美佐子は頭がクラクラした。尿の蒸れた匂いも混ざっているので尚更だ。

(更に下げると……どうなるのだろう)

と、下げようとした。

 

「あ……」美佐子は突然間の抜けたような声を出して自分のブルマの股間にグローブを当てる。

すぐにグローブを目の前に出すと、ねばっとした液体が糸を引いている。グローブを握ると

ヌチャッとその液体から音がする。美佐子の性器はいつ何をされても良いように

ダラダラと粘液を吐き出しながら開いていた。

 

そこで美佐子は気が付いた。自分の嗅いでいる匂いには、ひょっとして自分の匂いも混ざっているのではないかと。

その通りだった。いつも美佐子が自慰行為をした後、生臭い、本当に生々しい匂いが部屋に充満する。

その匂いも混じっているからだ。

(じ、じゃあ小百合ちんのここはどんな香りが…)

美佐子は一気に小百合のトランクスを足首まで脱がせた。

 

むわっと蒸気が吹き上がるように、様々な匂いが湧き上がる。

そこで美佐子は、小百合の膣口から液体がブルマまで繋がっているのに気が付いた。

そのひどく臭くて忘れられない匂いは鼻に入り美佐子の脳にしみこむように伝わった。

 

(なぶりものにしたい)

美佐子の頭にそう浮かんだ。初めての体験で手が震える。

震える手で小百合の性器をグローブの親指の部分で開くと、ジュッと愛液が少し飛んで美佐子の顔にかかった。

開いた性器へ顔を近づけて……舐める。

 

しょっぱい味がした。そして舌にまとわり付いてくる秘肉。美佐子は遂にその域へ到達してしまった。

小百合はほぼ気絶しているので過剰な反応は無い。ただ大きなクリトリスの包皮を剥いて直に舐めると

小百合の腰がビクンと上がった。

しつこく舐め続けると射精するようにクリトリスがビクンビクンと上下に動いた。

どうやらイったらしい。

美佐子の口いっぱいに愛液は溜まり、それを小百合の胸へと垂らす。汗よりもぬめり具合が強く、

ライトの反射で艶かしく見える。

 

 

「小百合さーん!」

セコンドの丸山が叫びながらマットの上へラジオを置いた。

 

-―さて美由紀選手。流石に立ち上がれないでしょう。……お、どうやら立つ気らしいです、何か言っていますね。――

 

 

「小百合―っ! 立ったぞーっ! 私は立った!」

 

ラジオから美由紀の声が聞こえ、小百合の意識が急速に戻された。

 

「むっ?」

急に小百合のいる場の空気が変わる。

(舐めてる場合じゃなかっただすか? ひょっとして小百合ちん、立つだすか?)

結局ブルマを脱がされ裸になった小百合だが、それを気にせず立ち上がろうとしている。

「私はね……ここで負けたら美由紀に申し訳ないの。二人で勝って勝って勝ち続けて更に上の次元を目指してるの」

 

美佐子はその言葉を無視して、すぐに冷静になり後退した。

「がいせんもーん!……からの」

 

「ヴェルサイユ!」

ビュン!と美佐子が突進して来る。

 

小百合の動きは「舞風」への動きに見えたので美佐子は左右の動きを微調整しながら小百合の顔面に

パンチを叩き込む。

 

はずだった。

 

舞風は闘牛士のように攻撃を流す。だが今回は逆回転をして来た。

小百合がヴェルサイユによる美佐子の拳を首を傾けて避けた瞬間に隙が出来た。

 

どぼっ!

 

「むぐっ!」

 

サンドバッグを叩くような音がして、美佐子のボディには小百合の拳が深々と突き刺さっていた。

 

「美佐子さんの突進する勢いを借りましたよ」

ボディからズボッと赤いグローブが抜ける。

 

ディスプレイに「逆舞風」と出た。小百合の技が増えたようだ。

 

「ガボォッ!」

ボダボダと美佐子が透明な胃液を大量に吐いた。 少し落ち着いたと思えば再度吐く。

吐く液体が無くなるまでそれは続いた。

 

(美由紀と私はもっと先へ……先へ進むんだ!)

 

「美佐子さん。覚悟して下さい!」

小百合が最後のパンチを打とうとすると、美佐子は急いで小百合にクリンチをした。

回復力はかなり早い方なので時間かせぎを狙っているようだ。

 

小百合は離そうとするが、ガッチリ体を掴まれており、なかなかクリンチは外れない。

二つの肉体はは汗と愛液が混じった液体の為、動く度にネチャネチャグチャグチャと音をたてる。そして

お互いはお互いに禁断の匂いを鼻にする。

ヌチャァッと音がして二人の体が離れた。

 

「小百合ちん……最後にしよう」

美佐子はおだやかな表情でそう言った。

 

「がいせんもーん」

美佐子からしかけて来た。

「ヴェルサイユ!」

 

(ここは舞風だね)

小百合はサラリと受け流し、美佐子はロープへその勢いで背中から当たり、ロープが伸びる。

小百合が振り向いた時、ロープからの反動の勢いもプラスされた速さで美佐子が迫って来ていた。

(腕が千切れようが折れようが、私はこれを打つ!)

 

 

 

 

 

「B・Bサイクロン!」

 

右、左、右、左とメイルブレイカーを打ち込む。

 

ぐしゃっ!

 

美佐子の顔面に突き刺さり体が少し浮く。

 

ぐしゃぐしゃぐしゃぐしゃぁぁぁっ!

 

更に連発でメイルブレイカーは宙に浮いた美佐子の顔面の全ての位置をとらえた。

 

トン

 

美佐子は普通に着地をしてファイティングポーズをとった。

「負けるワケにはね…いかないだ……す」

そう言った後、視点がおかしくなり美佐子の口が膨れてきた。

「ゴボォッ!」

血を吐き散らした。その直後、眼球がゆっくり白眼になるとそのまま顔面からマットに叩きつけられた。

 

1ラウンドでもう駄目かと思われた小百合だったが、奇襲型にも強いと今、観客はその強さに驚いている。

だが小百合は気を抜かなかった。レフリーは試合続行不可能と判断せずにカウントを始めたからだ。

そしてそのカウントの声に反応するように起き上がろうとする。

美佐子はボタボタッと血と唾液をマットに落としながら荒い息を吐き、歯を食いしばっている。

 

「ごぼっ……」

 

立ち上がりながら美佐子は真っ赤な物体を吐き出した。

 

びちゃんっ!

 

血塗れを超えた、完全に真っ赤なマウスピースだ。

 

「グウウゥゥゥッ!」

最後に全ての力を込める様に声を出しながら美佐子は立ち上がった。

美佐子自身も何故、自分が立つことが出来たのか、わからなかった。

 

「最後にならなかった……あたすに勝機が向いたみたいだす。

あんたの……あんたらの域まで到達してやるッッッ!」

美佐子が後半に咆哮し、空気がビリビリと震えた。

 

「あたすはな、わかったんだ! 有名になってチヤホヤされたいんじゃ無い!

 あんたらのレベルを追い越してさらに上を行ってやる事が望みだったんだッ!

そしてわたすのライバルはZEROなんだ!」

 

そう自分に言い聞かせるように叫ぶと、美佐子は戦略の手札を全て捨てた。

(そう、あたすは今、シンプルで良い。野生的にシンプルで良いッッッ!)

 

美佐子は走りながら「ただのストレート」を打ってきた。

途中で足がもつれながらも。

 

小百合は必死でそれを避けた。風を切り裂くような音が右の耳元で鳴った。

 

それで安心したのが小百合の失敗だった。

(しまった!逆舞風を使うべきだった!)

美佐子は小百合を通り過ぎたすぐ後、ターンしてもう一発ストレートを打って来た。

 

音は……まるで爆発音のようだった。

 

小百合の右頬から、顔面をえぐり吹き飛ばすような凄まじい一撃。

テレビの電気を切ったようにプツンとこの世が真っ暗になった。

マウスピースが物凄い勢いで小百合の口から外れ、吐き出された。

血や唾液を撒き散らし風力で地の色が出て白くなるような勢いで飛ぶ。

そして一階の出入り口のドアにべちゃっ!と当たり跳ね返る。

少し平坦な怪談があるが、そこをビチャビチャと一段ずつ跳ねて降りて来る。

リングサイドまで落ちると動きを止めたが、歯を入れる窪みから唾液と血がドロッと流れ出し

おぞましい姿を観客に見せた。更にマウスピースは千切れかけて捻じ曲がっており、マウスピースとは思えない、

小百合が異形のモノを吐き出したとしか思えなかった。

 

仰向けでダウンしている小百合は眼をあけているが残酷な殺され方をされ、恐怖に負けたような眼をしていた。

どこを見ているのかは定かでは無いが、まばたきをしない。

そして腰を少しグググッと痙攣するように上げ、

 

「がぼぉっ!」

 

と血や胃液の混ざった液体を吹き上げた。

 

レフリーのカウントが始まらないのはそれでも尚、小百合に襲い掛かろうとする美佐子を必死に止めているからだった。

まるで餌に貪欲なグリズリーのように獰猛さが増している。

 

小百合は全裸で、その上失禁、いや。放尿している事すらわからない。真っ暗な世界だ。

 

(ああ、暗いな。でも気持ち良い……)

 

 

セコンドの丸山はタオルを投げ込むべきだと思った。マンガの主人公のようにパワーアップして立ち上がるなど

夢物語だ。そしてタオルを投げようとした……が丸山は手を止めた。

(私の試合ではタオルを投げてはダメ。これ約束ね)

小百合の言葉が脳裏に蘇る。格好をつけて誰にでも言えるたった一言。だがそれを裏打ちするような小百合の

激しいトレーニング姿、試合でのスタンスを見てきた丸山にはとても簡単にタオルを投げることが出来ない。

 

――美由紀選手ピンチです! これは流石にもう駄目でしょう――

 

(美由紀が負けそうになってる……)

 

丸山は祈る気持ちでラジオをの電源を入れていた。

戦っているのは自分だけでは無いと丸山なりに考えた結果だった。

 

――そして……あーっと! 美由紀選手がダウン! これは立てないでしょう――

*****************************************

 

(私は今どこ? 美由紀?)

 

暗闇に手を伸ばす。

それはガッチリと掴まれ……。

「しょうがないなぁ小百合はホントに」

そういいながら誰かに右手ごと引き上げられる。

美由紀がいた。

「小百合はいつもこうなんだから。私がセコンドにいないと駄目だね」

「……そうだね、ごめんごめん」

 

美由紀は真っ白い雪の積もったような空間にいた。

仰向けにふわふわとした空間。とても心地が良い。

そこへ、たふ。たふ。と柔らかい足音がして来た。

「美由紀、聞こえてるかな?」

小百合の声がする。

「サボってるヒマがあったらトレーニング!、それでさ、その後に……ショッピング!」

「えー? ごめん、なんか疲れちゃって……このまま寝て、起きたらね……」

 

「次は無いのっ! 美由紀!」

小百合は美由紀の手を掴んだ。

「せーのっ!」

美由紀の体が持ち上げられる。

*****************************************

 

小百合は気絶状態から眼を覚ました。

レフリーが丁度指を数えろと出した所らしい。小百合は正確にその数を言った。

ロープを掴んで立ったのだろうか、何故自分が立てたのかはわからない。

が、余裕も無いのにうっすら笑顔を浮かべる。

「美由紀め」

そしてゆっくりファイティングポーズをとった。

 

――美由紀選手立ち上がりました! これは奇跡でしょうか! 立ち上がって……もの凄い覇気のある眼を

  しております! このような試合は始めてです!――

 

ラジオからそう聞こえた。

 

美佐子は変わらず野性的な破棄を放ち、試合が再開すればすぐに襲い掛かって来るかの如く、鋭い眼をしている。

小百合は自分の中にある精神の中にあるモノを鋭く、鋭く削っていくような感覚をおぼえた。

鋭く、鋭く、細くなればなるほど鋭く。

それに伴って小百合の眼は矢で相手を射抜かんばかりの様に変わる。

 

美佐子も虚勢をはるように覇気を高めようとしている。

 

が、小百合は言った。

 

「アナタはこの境地までまだ来られない」

 

試合再開の合図と同時に美佐子がつっ走って来た。

 

「覚悟は出来てるかぁぁぁぁぁっ!」

小百合が声を張り上げた。

小百合は覚悟が出来ていた。腕が千切れようが構わない。

 

「D・Dサイクロン!」

 

それは美佐子の拳と当たり、それを物凄い回転で吹き飛ばしながら

グシャッ! と美佐子の顔面を粉砕した。だが止まらない。

美佐子の顔やボディへ不規則的に回転度が物凄いパンチがめり込む。次々とめり込む。

回転数はオーバーリミット(限界を超えた状態)だ。腕が本当に千切れるのではないかという痛みが

襲ってくる。だが手は一切抜かない。

 

「これで最後だぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」

小百合の咆哮と共にメイルブレイカーがアッパーの形で美佐子の顎を突き上げた。

 

「ぶげっ!」

 

美佐子は血を吹き上げながら体を宙に浮かせた。

その時点で白眼になり、覚えているのは自分の吹き上げた血だった。

美佐子は仰向けに倒れた。「ダウンさせられた」というより「粉砕された」という言葉がふさわしいのかもしれない。

 

「美佐子っ! 美佐子!」

ZEROは叫んだ。

「美佐子っ! 私達、美由紀さんや小百合さんの境地まで行って頂点のライバル同士になろうって言ったじゃない!」

そしてひたすらマットの上を叩く。

「美佐子っ! 美佐子っ! 美佐子―!」

普段無口で感情を高ぶらせないZEROが必死に叫んでいる。

両目が失明した時もZEROは自分の運命を静かに受け入れたのに、

 

そんなZEROなのに今、叫んでいる。

 

(そうだっただすな……せっかくの挑戦する試合だから…力が少しでも残っていれば立たないと

 後でZEROに怒られるだすな。親友であるライバルに……ね)

 

美佐子は立ち上がろうとしている。

「チャンス……せっかくの……チャンス」

美佐子はロープにすがり少しずつ立ち上がる。

何も見えてはいない。これは夢かもしれない。

だがたぐり寄せ、たぐり寄せ、最後は立ち上がったように感じる。

 

うすぼんやりと風景が見えてきた。

どうやらこれは現実の世界で、ダウンから立ち上がることが出来たらしい。

口から鉄の匂いがして、不快で吐き出すと真っ赤な血だった。

体中がギシギシと悲鳴をあげている。ギシギシと崩壊して行く。

「ほ……ら。ZERO、ちゃんと立っ……」

その言葉を最後に美佐子は倒れた。

 

「立った…ね、ちゃんと立てたよ」

ZEROは滲んだ涙を指ではらった。

 

 

完全KO。

 

小百合の右手はレフリーに高々と挙げられた。

 

小百合コールの中、客席からテープを投げ込まれる。

ボロボロになりながら手にした勝ちは華やかで人の心を動かす。

 

だが力果てた敗者に声はかからない。

数々の試合をこなしてそれが日常的になっても勝者と敗者のコントラストの差は大きい。

(負ける惨めさを強く、強く感じてまたここまで昇って来なさい)

ボロボロになって全身痣だらけになって倒れている美佐子へ小百合は心の中で呟いた。

ただ、それだけだった。

敗者は敗者。小百合は勝者の喜びを感じていれば良い。

 

 

小百合はシャワーを浴びて普段着に着替えた。顔には湿布が所々貼られている。

携帯電話で美由紀に電話をかけてみた。試合は終わったのだろうか?。

 

電話はすぐに繋がった。

 

「あ、美由紀? こっちは勝った勝った。そっちは? うん、あ、そうかそうか、分かった」

電話を切ると小百合はコートを着て会場を後にした。

途中、公園で遊んでいる子供を見た。

「おれさまがおまえのライバルだっ!」

「なんだとっ!やるかぁ!」

おもちゃの刀で遊んでいる。

 

「ライバルか……」

そう言いながら小百合は少し笑顔になり、白い息を吐きながらゆっくりと町並みへ消えていった。