あかりの死亡届を手にして、こころは公園に着いた。

そこには浄が待っていた。

「悪かったね、助かるよ」浄は死亡届に目を通す。結核の悪化によって死亡したとの内容だ。

「これを本部に持って行く。さすがに死んじゃあヤキの入れようもないからね」浄はそう言って笑った。

挨拶はせず、右手を挙げて浄は車に乗り込もうとした。

「あ、あの」

「ん?どうした?」

「浄さんは大丈夫なんですか?」

「ああ、何とか言い訳して許してもらうよ」そう言ってまた笑う。

「浄さん、本当にヤクザですか?フレンドリーすぎますよ」こころはクスリと笑って言った。

「ヤクザだよ」終始笑顔だった。

 

                              *

 

「隔離されての入院もなかなかヒマなもんじゃねぇ」あかりは独り言を言う。

死亡診断書を書いて死んだ事にしてヤクザの道から足を洗おう。そう言ったのは、ひなただった。

咳がまだ醜いが、順調に回復していた。

 同じ病院に、ひなたは入院している。さすがに試合の怪我は醜かったらしい。

あかりは窓から外を見る。改めて見ると、懐かしい風景が広がっている。優しく降り続く雪を見て、景色が滲んできた。

 

 

                              *

 

「あいたたたた・・・・・・」ひなたは顔をしかめた。

「ごくろうさん、ひっきりなしに見舞いが来て疲れてるんじゃないか?」浩太が言う。

「えらく人が来るもんじゃね、寝たいのに」ひなたはしょうがないという風に笑ってみせる。

「痛くて寝れんじゃろう、まあ何も障害は残らないだろうって事だ、安心した」

「若いけぇね」

その言葉に、浩太は黙って笑顔で頷いた。

 

                              *

 

「カンノ、本当にいいの?」カンノの母親は客船に乗り込む前にそう言った。

「うん・・・・・・多分正面きってお別れを言うと悲しいから」

そういうカンノに、母親は手紙を渡した。

「そういう事だろうって、ひなたちゃんから手紙を預かってるの。お見通しね」

「あ・・・・・・」カンノは手紙を奪うように受け取ると、すぐに読み出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

−カンノちゃんへ

 

 本当にありがとう。ただ、それだけを伝えたいと思いました。

 無事に家に着いたらまたメールでも下さい。

 お互いに成長できたかな?でもまだ人生の途中なんだよね、お互いに。

 いつでも遊びにおいで、私はこの島に残る。

 いつでもおいで。そして、一旦さようなら。

 

                      お姉ちゃんより−

 

 

 とても短い手紙だったが、カンノは温かく感じた。手紙をギュッと胸に抱きしめて思い出す。

たった一週間未満のこの島での出来事は幸せだった。

素晴らしい思い出だった。絶対に忘れない。

「お母さん!」カンノが訴えるように言う。

「行ってらっしゃい」母親が見透かしたように言う。

それと同時にカンノは走り出した。

ここで過ごした間、ずっと聞いていた雪を踏みしめる音。

それを懐かしみながら走る。

きっと、本当は悲しくない。

泣くのが怖かった。でもそれは嬉しい涙。

 

 

 

 

 

私は今、自分を信じる事が出来る

何があっても立ち上がって前に進む力を教えてくれたお姉ちゃん

私は、自分を信じる事が出来る

いつか、落ち込んだとしても再び立ち上がる力を今は信じる事ができる

だから今から行くね

だって、言えなかった言葉がまだあるの

「お姉ちゃん、ありがとうって」

一言だけどとても大事な言葉

風を切って走る

心臓が高鳴る

今からすぐに行くね

 

 

                            *

 

ずっと、ずっと雪は降っていた。

シンシンと音を奏でながら。

人を笑顔には出来ないが

それでも誰の傷をも癒すように

シンシンと