あれから年月は過ぎた。ひなたが丘を守った日は、丘の上で祭りをするようになった。

年寄り連中に「あの時はひなたちゃんがな、頑張ってな!」と毎年武勇伝のように語られるので、ひなたは

その度に少し恥ずかしい気持ちになる。

だが、ひなたは祭りの最中にも切ない顔をして海を見つめる事があった。

結局あかりは病気を治すと、誰にも何も言わずに姿を消した。島を出てしまったのだ。

「よう」

「ひなたちゃーん、久しぶりー」

仁とこころが祭りの為に来てくれた。

「おー、来たね同棲カップル!」ひなたが言うと、こころが頬を赤くした。

浩太、七海、イネ、桃香の一家オールスターズが出店で忙しそうにしている。

イネはのんびりとレジを打っている。顔の広さから、遅くても文句を言う人は少ない。

ヤクザ息子四人組も負けじとタコヤキの露天を出している。鬼のような忙しさらしい。

「兄貴!タコがもうない!」

「つ、釣って来い!頼んだ!」

「それまで何すりゃええんじゃ?客は来るぞ」

「イカがある、イカが!」

「アホか!」

漫才のように騒いでいる。

 

「あかりがもしいたらなぁ」ひなたはそれだけが寂しかった。

もし、まっとうな人生を送っていても、この産まれた島の皆とは喋りあえない。

寂しいに決まっている。きっとあかりの事だから、あの日だけを思い出に、がむしゃらに

生きているのだろう。

 

「お姉ちゃん!」カンノが走り寄ってくる。あの日より成長して背も高くなっている。

「カンノちゃん!」飛び寄ってくるカンノを、ひなたは抱きしめた。

「あのね、新鮮なお魚をまた食べにきたよ!」カンノは目をキラキラさせて言った。

「よしよし、あれから料理覚えたから、祭り終わったら家で鍋と刺身だ!」

「やった〜じゃあ、ツナギで買い食いしてくるね!」カンノは並んでいる露天を見ながら

その全てに興味があるようにキョロキョロして歩いて行った。

 

 

「うし、ウチも楽しむぞー」ひなたは背伸びをした。

 

「甘えたらいけないと思って、東京で仕事を探して必死に頑張った」

ひなたの後ろから声がする。

「でも!でも!一人きりじゃ生きていけないから・・・・・・温かい物に触れたら忘れられない

から!」

ひなたはじっとその言葉を聞いている。

「これでも頑張ったんだよ?コンビニのオーナーまで行ったんだよ!?でも、あの日の

事は忘れられなかった、方言も忘れようと標準語にしちゃった。でもね、忘れようと

思っても忘れられない、だから、だからね!」

 

ひなたが振り返る。

 

「ただいま」

 

彼女は目に涙を溜めて笑って言った。ひなたは心から笑顔になる。そして言葉を返す。

 

 

「おかえり、あかり」

 

 

               END